「日本は難民に冷たい」という批判は本当?
実は〝無関係〟な申請者
元国連専門機関職員・谷本真由美
産経新聞 2024/12/22
埼玉県川口市のクルド人問題が注目を集め、日本でも難民問題がよく議論されるようになっているようだ。日本政府はこれまで難民の受け入れ数が少ないと批判されてきた。しかし、難民を多く受け入れてきた欧州と日本を、客観的なデータに沿って比較してみると、意外なことが分かる。
例えば受け入れ数の多い英国。内務省などのデータによれば、2023年で難民認定率が99~86%と高いのはアフガニスタンを筆頭にイランやシリア、スーダン、エリトリアなどからの申請者だが、政情が不安定な国が中心。日本も、出入国在留管理庁の発表では、アフガニスタンの場合は認定率は9割程度のようだ。
一方、日本における申請者は、欧州諸国で認定率が低いカンボジアやスリランカなど5カ国が66%を占める。「難民」というと、自国で命の危機に直面し保護を求め逃げてくるというイメージを持つかもしれないが、日本の難民認定申請者は、観光目的などで入国した「短期滞在」や「技能実習」など「正規滞在者」が94%である。つまり、多くは経済上の理由などで日本滞在を延長しようとする、難民とは無関係の申請である可能性があるということだ。「日本が難民に冷たい」などという批判は、単純には受けとれないことが分かるだろう。
英国は「無関係申請」の削減のために難民審査制度を厳格化した。内務省で不認定とされた難民申請は、第一層審判所で再審査が行われることもあるが、ここで却下された場合、控訴はかなり難しくなっている。
難民審査の厳格化は、対応に当たる行政への負担を減らすばかりではなく、犯罪組織の活動資金を断つという意味もある。英国では、1990年代後半から出稼ぎ目的の「無関係申請」が増加し、偽装難民を巡る犯罪防止の必要が高まった。今年2月には欧州刑事警察機構(ユーロポール)が仏独警察と協力し、フランスでイラク系クルド人たちの大規模な偽装難民密航請負組織の解体に乗り出している。
こうした犯罪組織はトルコや中東から希望者を募り、陸路やボートを使って英国や欧州大陸に密入国させるのだが、高額な手数料を徴収する。これらがテロや犯罪の資金源となるばかりではない。組織が麻薬取引、人身売買にも関わっている例もあり、密入国希望者が奴隷として売られたり、性虐待の被害者になったりすることもある。
わが国による難民保護を巡る議論も客観的なデータや社会情勢、欧州のこれまでの経験を考慮した上で進めていくべきだろう。また日本政府の難民審査や保護は実際はかなり公平なのだが、それが報道されてこなかったのは残念である。
谷本真由美
たにもと・まゆみ 米シラキュース大院で修士号。「めいろま」の名でも活躍。