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無為無策の自公政権とテーマパーク的「独島記念館」開設 さらに広がる日韓の領土戦略格差

産経新聞/下條正男 2024/10/21

 この7月23日、韓国の三陟(サムチョク)市に「三陟異斯夫独島(イサブトクト)紀念館」が試験的に開館し、9月3日、正式オープンした。その試験的な開館から1カ月間の来館者は1万4千人を超えたという。

 

領土問題を観光に

 紀念館は「ウエルカムセンター」、「異斯夫館」、「独島体験館」(独島メディアアート館)、「ライブラリー喫茶館」の4棟からなり、入館料は大人6千ウォン(約600円)、子供3千ウォン(約300円)だという。

 

 三陟市などによると、同館は「異斯夫将軍の海洋開拓精神と環東海圏の文化・歴史・観光拠点の一環」として開館したもので、領土教育と歴史問題をイシューにしたテーマパーク的な機能を持たせて竹島問題を地域振興の観光資源としたのだという。館名は512年に于山(ウサン)国(鬱陵(うつりょう)島)を征服した新羅の異斯夫将軍に由来する。そこに独島(竹島の韓国側呼称)が含まれているのは、その時に独島が韓国領になっていたからだという。

 

 現在、韓国内にはこの種の施設として「独島体験館」が全国に17館あり、鬱陵島には「独島博物館」と「安龍福(アン・ヨンボク)記念館」、「独島義勇守備隊記念館」がある。近年、その竹島問題が関心を集めているのは、韓国に尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が誕生して以来、日韓の歴史問題に極力触れないよう努めてきたことが関係している。尹政権は、韓国側が歴史問題を外交課題にすれば、日韓関係が意味なく悪化することを知っているからだ。

 

 だが野党側は、それを軟弱な対日外交策だとして政権批判の格好の口実にしてきた。そこに韓国の学者が「独島は韓国領とはいえない」と語ったことで竹島問題に対する関心が高まり、「独島教育」の強化を求める声が高まっていた。

 

国益より私益優先

 この状況は、日本にとって竹島問題解決の好機のはずだったが、自民・公明両党の連立政権にそれを生かす動きはなかった。それは2005年、島根県議会が「竹島の日」条例を制定した際、韓国創価学会が公明党に対し、自民党が竹島問題の解決に向かった際はブレーキ役を果たすよう求めていたこととも関係していた。

 

 それに自民党も、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が深く、教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の説教集である『天聖経』では、「私は日本の国会議員たちともたくさんのかかわりをもっています」「私と関係のある人がおよそ180人はいます」としている。自公連立政権では、竹島問題の解決は期待できないのである。

 

 だがそれは旧民主党系の国会議員らも大同小異である。昨年末から続く中国海警局の艦艇による尖閣諸島周辺海域での挑発行為に対し、自公連立政権は何ら有効な措置を取ってこなかった。野党側にとっては、小泉純一郎政権以来の竹島と尖閣諸島、北方領土の問題に対する不作為を追及し、政権交代につなげるカードにもできたが、野党の先生方も無為に過ごしていた。

 

 国会議員の役割は、国民の生命と財産を守ることにある。だが昨今の国会では、与野党ともに「裏金」と「政治とカネ」の問題を最優先にしてきた。しかしそれは政党と国会議員個々人の問題であって、いわば「私益」に属する事柄である。本来、優先されるべきは、侵され続ける国家主権を回復し、日本の「国益」を守ることである。

 

 現に竹島を不法占拠する韓国側では「独島死守」をスローガンに、竹島の日条例の制定と同時に戦略的な対応を取ってきた。韓国では05年4月に「東北アジアの平和のための正しい歴史定立企画団」を発足させると、06年9月には改組して「東北アジア歴史財団」とし、08年には「独島関連の中長期の総合的な対応、戦略および政策建議」を主たる目的とした「独島研究所」を開設している。

 

展示館拡張しても

 今日、韓国民の多くが「独島死守」の気概(民族感情)を持っているのは、韓国政府による持続的な政策が功を奏しているからである。一方、日本では安倍晋三政権時代の13年2月に「領土・主権対策企画調整室」が誕生し、「領土・主権展示館」を開館させたが、韓国側に比べるとアナログとデジタルほどの違いがある。

 

 同室主催の有識者会議に呼ばれることがあり、その際には韓国側の現状を説明し、日本がすべきことは国民啓蒙(けいもう)ではなく、研究機関の設置とそれに基づく戦略的対応だとしたが、その異見は報告書から削除された。あれから10年、日韓のギャップはますます広がっている。

 

 9月15日付の読売新聞(電子版)によると、領土・主権展示館では現在670平方メートルある床面積を約1千平方メートルに拡張し、「日本の主権に対する理解を広げる」のだという。

 

 だが間違ってもらっては困る。竹島や北方領土、尖閣諸島の主権はすでに侵されている。その主権の回復は政府の仕事である。領土・主権展示館を拡張しても問題は解決しないからだ。(拓殖大名誉教授)

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