「出てこーい」
「出てけー」
令和6年の荒れた選挙 目立ったアンチの妨害
緊迫した小池氏への落選運動
7月6日、JR池袋駅前。降りしきる雨の中、投開票を翌日に控えた都知事選で3選を目指す小池氏の演説会場は、開始前から緊張感が漂っていた。陣営スタッフと小池氏を批判するビラを持った人々があちこちで対峙している。
レインコート姿の小柄な中年女性は大柄な小池氏陣営の男性スタッフを両手で押しながら、聴衆エリアに入ろうとしていた。無理を悟ったのか。勢いよく傘をさすと、聴衆エリアの周囲で歩き回って、「小池百合子の公約実現はゼロー」「小池百合子の公約実現はゼロー」と叫んでいた。
今回の都知事選では、立憲民主党元参院議員の蓮舫氏の〝電撃参戦〟、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏の既存メディアではないSNSを駆使した発信力と躍進が注目された陰で、小池氏に対する「アンチ」の落選運動も際立った。
2日にJR秋葉原駅前で小池氏が行った街頭活動には、「さよなら小池百合子さよなら」「おい、小池!」などと書かれたビラを手にした「アンチ」の人々が大挙した。
ある男性は、小池氏が演説している間も、柵で囲われた聴衆エリアの外でぴょんぴょん飛び跳ねながら、「うーそつき」などと独特のリズムで叫ぶと、「帰れ帰れ」と小池氏をやじっていた。
蓮舫氏が6日夜にJR新宿駅東南口で臨んだ最終演説では、応援に駆け付けた立民の野田佳彦代表も小池氏について、「同じ穴のタヌキは駆逐しようじゃないか」と珍しく過激な表現を用いる場面もあった。過激な「アンチ」の手法に影響されたのだろうか。
蓮舫氏は翌7日夜、敗戦確実の報が伝わると、「結果として届かなかったのは私の力不足」と悔しさをにじませた。
自民非公認候補の事務所にデモ
10月15日の衆院選公示を前にした12日午後。八王子市の中心部では「裏金カルト議員はいらないアクション」と銘打ったデモ活動が行われ、約70人の人々がのぼりやプラカードを手にコールを叫んでいた。
「出てこーい」
こうした挑発的な声が上がったのは萩生田氏の事務所前を通り過ぎた際。萩生田氏は東京24区からの出馬を控えていたが、不記載事件を受けて9日には党の公認が見送られた。
同区には、「政治とカネ」や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を焦点にしようと、立民の有田芳生元参院議員も出馬し、市民活動を前面に押し出した萩生田氏批判を展開。同月7日の出馬会見では、八王子の市民運動の歴史を振り返って「立民が前面に出て目立つような選挙にするつもりはまったくない」と強調していた。
一方、市民運動家らの活動は過激な面も否めない。
法政大名誉教授の田中優子氏を八王子市に招いたパネルディスカッションでは、9月の自民党総裁選で高市早苗元経済安全保障担当相が決選投票に残ったことについて、「まずいと思った。日本の歴史に残る最初の女性総理…恥ずかしい」と述べ、「安倍晋三が女装して現れた。女性がどういう歴史を歩み、政治がそれに対して何をしないといけないのか、一度も考えたことない」と元首相の名も呼び捨てで使いながら切り捨てた。
投開票を翌日に控えた26日夜には市内のショッピングセンター前で、萩生田氏陣営のスタッフらの背中に向かい、こんなヤジが飛んだ。
「出てけー」「統一教会は、日本から出てけー」
ヤジの主はこの場で直前まで街頭演説を行った有田氏の支援者とみられる。有田氏はその場にいなかったが、支援者らは「裏金議員は退場しろー」などと叫び、萩生田氏のスタッフの方角に向かって、中指を立てる人もいた。
96歳最高齢候補も
都知事選を巡っては、発明家で国際創造学者のドクター・中松氏も出馬し、7月5日、JR秋葉原駅前でこう訴えた。
「私が都知事になれば、自動的に、自動的に東京が世界の発明センターになります。なぜならば外国人はみんなドクター・中松(の発明の実績)を知っている。お金が集まってくる。どの候補もできない」
中松氏は96歳と候補者56人の中で最高齢で、平成26年以来10年ぶりの出馬となったという。政治とカネの問題を挙げて、「職業政治家による裏金政治」の刷新を掲げた。
告示後はネット上で政策を発信していたが、SNSで「直接会いたい」とメッセージが寄せられ、街頭演説に臨んだという。酷暑の中、演説を終えた中松氏は選挙カーの助手席に腰かけると、記者団の取材にも応じ、「皆さんに私の気持ちが伝わってもらえればうれしい」と述べた。
「秋葉原、ありがとう。ドクター中松です」
中松氏はマイクでこう感謝を述べながら、秋葉原の街を去っていった。(奥原慎平)